高レベル放射性廃棄物の固定化
このセクションでは、高レベル放射性廃棄物の固定化について調査し、東海村における高レベル液体廃棄物および固体廃棄物の解決策について検討します。
1. HLWの固定化
原子炉を 1 年間運転すると、質量の 95% のウラン (93.8% 238U, 0.8% 235U, 0.4% 236U)、1% のプルトニウム (0.8% 239Pu, 0.2% 240Pu)、4% のFP (fission products, 核分裂生成物) と0.1% のMA (minor actinide, ウラン、プルトニウム以外のアクチノイド) を含む約 100 トンの使用済み燃料が生成されます。再処理工場においてウランとプルトニウムを回収した後の残りの物質を高レベル放射性廃棄物(HLW)と呼びます。これにはFP、MA、および回収プロセスやタンクの腐食から生じた追加物質(P、Na、Fe、Ni、Cr等)が含まれます。Table 2 とTable 3 は、主な放射性核種の半減期と重量を示しています。(Caurant, Daniel et al. [4]). HLW は、極めて有毒であり、その放射性毒性が天然のウラン鉱石のレベルに戻るまで、生物圏から隔離されなければなりません。分離を実行する 1 つの方法は、HLW を耐久性の高いマトリックスの中に固定化することです。現在、ガラス、ガラスセラミック、セラミックという 3 つの主要な廃棄物形態があります。
2. Glass(ガラス)
現在、ガラスは、 HLW を固定化するための主要な廃棄物形態です。主にSiO2 、B2O3 、およびAl2O3 からなるホウケイ酸ガラスは、優れた化学的耐久性と、HLWに含まれる様々な化学元素を組み込む柔軟性があるため、多くの国で使われています。ガラス固化体の生成プロセスは、廃棄物をガラスフリット(glass frit)とともに高温 (1100°C) で溶解し、キャニスター内で冷却するだけです。米国、ロシア、中国、日本で使用されているJHCM(ジュール加熱セラミックメルター)は、電極によるジュール効果により、廃棄物とガラスフリットを含む溶融物を直接加熱します。フランスと英国で使用されている AVM プロセスでは、まず回転炉 (500°C) で HLW 溶液を蒸発させて焼成し、次に焼成した廃棄物とガラスフリットを加熱された金属溶解装置 (1150°C) に入れて、ガラス固化体を生成します。(Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5])
ガラスは、室温では、結晶構造を持たないアモルファス固体であり、全体的には規則的な配列構造を持ちません。
純粋なシリカガラス(ケイ酸塩)の構造は、SiO4 四面体の連続したランダムなネットワークです。各四面体は 4 つの四面体に結合しており、各酸素原子は 2 つの Si 原子間で共有され、強い結合を形成しています。ガラスネットワークに Na2O を添加すると、融解温度と粘度が低下します。その理由は、2 つの強い Si-O 結合が 2 つの弱い Na-O イオン結合に変換されるためです。 (Figure 4) しかし、B2O3 をさらに添加すると、ガラスネットワークが強化されます。 B2O3 はネットワークに参加し、ネットワーク内の弱いイオン結合を減少させます。 Na2O はネットワーク修正(Modifying)酸化物と呼ばれ、B2O3 はネットワーク形成(Forming)酸化物と呼ばれます。これら 2 つの異なる挙動を予測するために、酸化物中の陽イオン M のField Strength F は F = Z/d2 として定義されます。ここで、Z は M の陽イオン電荷、d は 陽イオン M と酸素の間の平均距離 (Å (10-10m)単位) です。
Dietzel の定理: F >= 1.5 の場合、ネットワーク形成酸化物であり、F <= 0.4 の場合、ネットワーク修正酸化物になります。 (Caurant、Daniel et al. [4])
酸化物のField Strengthが高く (F >= 1.5)、ネットワークに参加できない場合、酸化物は独自のネットワーク (Phase、相) を生成する傾向があります。以下の文では、ガラスはホウケイ酸ガラスを意味します。1. alkalis and alkaline-earths(アルカリとアルカリ土類)
Cs+、Rb+、Ba2+、Sr2+ などのアルカリおよびアルカリ土類陽イオンは、Field Strengthが低く、ネットワーク修正剤または電荷補償剤(charge compensator)の役割を果たします。これらはガラス構造に容易に溶解します。ただし、水にもよく溶ける性質があり、自然環境の中で容易に拡散します。オルトリン酸塩 (PO43-) やモリブデン酸塩 (MoO42-) などの難溶性の陰イオン物質が存在する場合、それらと結合して別の相を形成し、ガラス廃棄物の全体的な耐久性を低下させます。(Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5])
2. Transition metals(遷移金属)
2.1.Zirconium(ジルコニウム)
ジルコニウム Zr (20% は 93Zr で、半減期は 1.5 106 年)は、高いField Strengthを持ち、ZrO6 八面体としてガラスネットワークに参加します。しかし、ジルコニウムは、化学的耐久性に優れていることで知られている ZrO2 や ZrSiO4 などの別個の相を形成することもあります。 (Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5])
2.2.Molybdate(モリブデン酸塩)
モリブデン酸 Mo6+ は放射性ではないFP(核分裂生成物)であり、高いField Strengthを持ちます。モリブデン酸塩はガラスに対する溶解度が低く、「Yellow Phase」と呼ばれる MoO42-四面体として別個のネットワークを形成し、ガラス廃棄物の耐久性を低下させます。(Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5])
3. Platinoids(プラチノイド)
プラチノイドはガラスに対して、ほぼ不溶性であり、結晶相の RuO2 および多金属 (Pd、Rh、Te) 合金として存在します。 (Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5]) これらは溶融物の粘度および導電率を増加させます。密度が高いため (dglass = 2.5 と比較して dPd = 12、dRu02 = 7)、炉の底に堆積する傾向があります。
粘度の増加により、キャニスターへの溶融液の流れが妨げられることになります。 JHCM (ジュール加熱式セラミック溶解炉)では、局所的な電気伝導率の増加により、溶融物の他の部分からジュール熱が奪われることでガラス固化のプロセスに必要な温度に達しなくなります。 また、電気がショートする危険性もあります。(Caurant, Daniel et al. [4])
4. Rare earths and actinides(レアアースとアクチノイド)
4.1.Lanthanides and actinoides (Am, Cm) (ランタニドおよびアクチノイド (Am、Cm))
(La、Ce、Pr、Nd) はランタニドの 90 wt% 以上を占めます。ランタニド (La、Ce、Pr、Nd) とアクチノイド (Am、Cm) は非常によく似た化学的性質を持っています。これらの要素を表すために Ln という表記を使用すると、Ln3+ は高いField Strengthを持ち、一般にガラスネットワークによく溶解します。これらは強い Ln-O-Si 結合を形成します。(Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5])
4.2.アクチノイド (U、Pu、Np)
より軽いアクチノイド (U、Pu、Np) は、より重いアクチノイド (Am、Cm) とは異なる性質を持っています。 Pu4+ は中性および酸性の状態で存在します。 Pu3+ はアルカリ性の条件でのみ発生します。 Pu3+ は、Pu4+ よりもガラスネットワーク内での溶解性が高くなります。
プルトニウムを固定化する、より良い選択肢は、セラミックを使用することです。以下のセラミックのセクションを参照してください。
3. Glass-ceramic(ガラスセラミック)
ガラスセラミックは、結晶セラミックがガラス内に均一に分散された複合物質です。一般的にガラスネットワーク内において、別の相が分離すると、ガラス廃棄物の化学的耐久性が弱まります。ただし、上に示したジルコニウムの場合のように、分離した相が優れた化学的耐久性を備えている場合もあります。ガラスセラミックの研究における強い動機の 1 つは、「二重封じ込め」のアイデアです。このモデルでは、第一のバリアとして結晶セラミックが長い半減期を持つ放射性核種を取り込み保持します。そしてそのセラミックがガラス構造の中に分散されることで、ガラスが第二のバリアとして機能します。 (Caurant, Daniel et al. [4])
1.制御された結晶化
ガラス中のセラミックは、核生成と結晶成長の 2 つのステップで生成されます。ガラスとセラミックスの原料を混合した後、まず核生成に適した温度を保ち、次に結晶成長に適した温度を保持することで、ガラス内にセラミックスが生成されます。
(Caurant、Daniel et al. [4]) では、Zirconite(ジルコナイト)のガラスセラミックを形成する実験が行われました。まず、ガラスの成分(SiO2、Al2O3、CaO、Na2O)、ジルコナイトの成分(TiO2、ZrO2)と MAの代替物質(Nd2O3)を 1550°C で混合し、均質なガラスマトリックスを形成します。次いで、核生成のために810℃で2時間、結晶成長のために950 – 1350℃で2時間保持しました。 2 時間のannealing(アニーリング)の後、ガラスはジルコナイト セラミックのみを含むガラスセラミックに変換されました。しかし、この実験や他の文献においても、MA 代替物質は常にガラス内に残りました。したがって、二重封じ込めのアイデアは、このアプローチではまだ実現されていません。 (Caurant, Daniel and Majérus, Odile [5])
2. カプセル化
二重封じ込めバリアを実現するためのより簡単なアプローチは、すでに廃棄物を含んでいるセラミックをガラスマトリックスにカプセル化することです。 (S. Pace et al. [2]) では、ホットプレス(hot pressing)法を使用して、pyrochlore(パイロクロア) セラミックの粒子をソーダホウケイ酸ガラス内にカプセル化しました。比較的低い温度 (620°C) を使用すると、パイロクロアの構造は変化しませんでした。
4. Ceramic(セラミック)
セラミックスは、地球や月や火星などの他の惑星に存在する多相または単相の結晶物質です。現在、セラミックは、次の理由により、HLWから分離抽出された長い半減期を持つFP およびアクチノイド( 135Cs、Pu等)の固定化における標準的は廃棄物形態となっています。
1. セラミックは結晶構造を持つため、一般にホウケイ酸ガラスよりも数桁、耐久性が優れています。非常に古いセラミックスが自然界に存在することからも優れた耐久性が証明されます。
2. セラミックはガラスよりも熱に対して安定しています。 (固体ガラスには転移温度 Tg があります。温度が Tg を超えると、ガラスの粘度は急激に低下します。)
3. セラミックは、Pu や その他のアクチノイドを高い濃度で取り込むことができます。これらの物質は、ホウケイ酸ガラスにおいては、概ね低い溶解度に限られています。
セラミックは、冷間プレスおよび焼結(cold pressing and sintering)、ホットプレス(hot pressing)、熱間静水圧プレス(hot isostatic pressing, HIP)、および放電プラズマ焼結(spark plasma sintering)などのいくつかの標準的な方法を使用して製造できます。 (Albina I. Orlova and Michael I. Ojovan [7])
多くの種類のセラミックが研究されています。 FPとアクチノイドの固定化に使用されるセラミックスの例をいくつか示します。
1. Hollandite(ホランダイト)
ホランダイト Ba(Ti,Al)2Ti6O16 は Cs の固定化に使用できます。 Cs は、(Ti,Al)O6 八面体のフレームワークのトンネル内に収容されます。 (Figure 5)2. Zirconolite(ジルコノライト)
ジルコノライト CaZrTi2O7 は非常に耐久性があり、MA(Np、Am、Cm) および Pu を取り込む優れた能力を持っています。ジルコノライトの構造は、Ca/Zr層(CaO8、ZrO7)とTi層(TiO6、TiO5)から構成されます。 MA と Pu は Ca/Zr 層に収容できます。 Puの場合、臨界のリスクを抑えるためにGdも一緒に添加する必要があります。 (Figure 6)
Synroc(Synthetic Rock、合成岩)は複数のセラミックスの集合体です。この研究は、1978 年にオーストラリア国立大学のテッド リングウッド教授と共同研究者によって開始され、ANSTO との共同研究でさらに発展しました (Wikipedia (Synroc) [1])。 Synroc C は基本的な配合物で、ホランダイト(hollandite)、ジルコノライト(zirconolite)、ペロブスカイト(perovskite)の 3 つのチタン酸塩鉱物と少量の酸化チタンで構成されています。 Synroc C は、HLW のほぼすべての要素を組み込むことができます。 (Jostons, A and Kesson, SE [3])
Synroc を HLW 溶液と混合し、混合物を乾燥させ、750°C で焼成して粉末を生成します。この粉末は、HIP (熱間静水圧プレス) として知られるプロセスで 1150 ~ 1200°C の温度で圧縮され、密度の高いSynroc(合成岩)が得られます。(Wikipedia (Synroc) [1])
5. 解決策
東海における高レベル放射性廃棄物(固体、液体)に対する私たちの解決策は、Synroc と ANSTO によるプロフェッショナル サービスを使用することです (ANSTO [6])。
東海市と六ヶ所村の再処理工場ではJHCM(ジュール加熱式セラミック溶解炉)が使用されています。プラチノイド(前述)による問題により、再処理工場の操業は停止したままです。 ガラスは、今もHLW を固定化するための主要な廃棄物形態です。しかし、アモルファス構造のため、ガラスマトリックス中の望ましくない相の生成を防ぐためには、HLW の各元素の特性だけでなく、元素間の関係も十分に理解する必要があります。一方、セラミックスは結晶構造を持つため、ガラスよりも熱的に安定しており、化学的耐久性が高く、より多くの廃棄物を取り込むことができます。セラミックスの構造は廃棄物を取り込む前後で変化しません。したがって、セラミックスはガラスに比べてより優れた性質を持ち、かつ取り扱いがはるかに簡単です。
Sysroc は、多目的に使用できる一種万能の解決策を提供します。Sysrocでは対象廃棄物の成分に応じてセラミックスの配合を調整することが可能です。東海の高レベル放射性廃液にはガラスフリット由来のSiO2が含まれ、高レベル固体廃棄物には金属物質が多く含まれています。 Synrocのプロセスを適用する前に、Synroc内のセラミックスの配合を調整するか、もしくは、廃棄物から不純物として一部の元素を除去する必要があります。
References
[1] Wikipedia (Synroc). Synroc. https://en.wikipedia.org/wiki/Synroc.
[2] S. Pace, V. Cannillo, J. Wu, D.N. Boccaccini, S. Seglem, and A.R. Boccac-
cini. Processing glass–pyrochlore composites for nuclear waste encapsula-
tion. Journal of Nuclear Materials, 341(1):12–18, 2005.
[3] A Jostons and SE Kesson, The synroc strategy for hlw management, Min-
eral. Mag. A, 58:458–459, 1993.
[4] Daniel Caurant, Pascal Loiseau, Odile Majérus, V. Aubin-Chevaldonnet,
Isabelle Bardez-Giboire, and Quintas Arnaud. Glasses, Glass-Ceramics
and Ceramics for Immobilization of Highy Radioactive Nuclear Wastes, 04
2009
[5] Daniel Caurant and Odile Majérus, Glasses and Glass-Ceramics for Nu-
clear Waste Immobilization, 01 2021
[6] ANSTO, Ansto synroc, https://www.ansto.gov.au/products/
[7] Albina I. Orlova and Michael I. Ojovan. Ceramic mineral waste-forms for
nuclear waste immobilization. Materials, 12, 2019.